これは恋?それとも親愛の情?











「それで、お前はどう思うか聞きたいんだけど・・・律?」

「・・・・・・」

真夏らしく、焼けるような日照りが射すある日の午後、大地は律と二人、部室でアンサンブルの相談をしていた。
しかし、肝心の律が先ほどからこの調子で、まともな返事が返ってこない。

「・・・おい、律」

「・・・ああ・・・」

仕方なく大地は、軽く溜息を吐いた後、彼の肩を軽く揺すってみた。

「律」

「っ?あ、ああ、どうした大地」

「あのな、それは俺が聞きたい。さっきからお前、全然話を聞いてないだろう」

「・・・・・・」

この友人の、ゆるぎなく夢を語る姿に感化され、自分はオケ部に入り、全国優勝を目指すようになった。
ところが、そんな音楽に熱心な彼が、珍しく今日は上の空で全く話が進まないのだ。

「お前がそんな風になってるなんて、そうそうないだろ。何かあったのか?」

その常に落ち着いた様子からは分かりにくいが、誰よりも全国制覇に闘志を燃やしている律。
そんな彼が演奏についての話題の最中に、心ここにあらずとは、どう考えてもおかしかった。

「・・・小日向が」

「ん?」

「・・・先日、1年のための楽譜を調達に行った際、小日向にも付き合ってもらったんだが」

そこで一度、いつもは率直に意見を言う律らしくなく、躊躇うように一瞬言葉を切る。

「その時、この後デートに行くと言って、服装もいつもより着飾っていた」

「デート?ひなちゃんが?」

意外な言葉に、大地は目を見開いて律をじっと見つめる。
あの、今目の前にいる友人に夢中な彼女が、彼以外の男とデートをするとは考えにくいが。

しかし、それ以上に意外なのは、次に律がポツリと呟いた一言だった。

「それ以来、何故か胸がモヤモヤとして落ち着かない。・・・あいつももう子供ではないのだから、俺以外の誰かと出かけてもおかしくないのにな」

今度こそ、大地は吃驚して唖然とする。

恋愛ごとなど、欠片ほども興味がないと思われた律が、まさか彼女の言葉一つで、これほど動揺するとは誰も思うまい。
今のこの、迷子のように不安げな彼の表情を見たら、響也やハルは何と言うだろうか。

「・・・すまない、変なことを言った。いくら妹のようにあいつを思っていても、交友関係が広がるのは良い事なのだから、寂しいなどと思ってはいけないな」

そう言いながらも、律の言い方はどこか自分自身に言い聞かせているようなもので。
大地は思わず噴き出してしまう。

「だ、大地・・・?どうしたんだ?」

「はははっ・・・いや、悪い。お前があんまりにも鈍感なものだからさ」

謝りながらも、なかなか笑いが収まらず、大地はしばらく肩を震わせると、ようやく口を開いた。

「なあ、本当にそれでいいのか?律」

「どういうことだ?」

「ひなちゃんがデートするって言ったんだろ?それを見送ってしまってさ」

今日の律は、普段からは考えられないほど表情豊かだ。
自分の言葉に、その瞳が僅かにだが、揺れる。

「離れていくのが寂しいっていうのは、そばにいたいってことだろ?
お前は思い込みが激しい所があるからさ・・・本当にひなちゃんを妹のように思っているのか、よく考えないといずれ後悔するかもしれないぞ」

それを聞いた律は、自分の言葉の意味が理解できなかったらしく、一瞬混乱した様子を見せると、とうとう考え込んでしまう。
その様子に、これでは話は進みそうにないと判断した大地は、話し合いはまたの機会にしようと、思考に没頭する彼を置いて、部屋を後にした。
扉を閉めると、大地は深く溜息を吐き出す。

「全く・・・見てられないな」

多くの部員たちに、その高い実力と堂々とした態度、そして優等生らしい品行方正な振る舞いから、優秀な部長として尊敬を集める律。
容姿だって、男の自分から見ても文句なく整っており、彼に好意を寄せる女子生徒も少なくはない。

ところが、当の本人は破滅的に他人の心の機微に疎く、高校生とは思えないほど、音楽の事しか頭にないようだった。
異常とも思えるその恋愛への関心のなさと鈍感さは、何か理由があるのではないかとずっと考えていたのだが。
ようやく今日、その原因が分かった気がした。

「あんなにあいつを動じさせることの出来る女の子が、いるとは思わなかったな」

2年と半年近く一緒にいるが、大抵の事には動じない律があれほど動揺するのを見たのは多分初めてだ。
そう思い、大地は困ったように笑う。

本人たちはまるで気づいていないが、律とかなでは、本当に似た者同士である。
傍から見る分にはどう考えても両想いなのに、二人とも鈍感で、不器用で。
どちらも、どこまでも相手のことしか見ていないから、あれほど他の誰かに寄せられる想いなど、想像もしないのかもしれない。

それでもかなでから寄せられる想いにさえも、彼が気が付かないのは、多分、兄妹のように育った時間が長過ぎるせいだろう。
一緒にいるのが当たり前になり過ぎて、二人の関係性の意味を考えたことも、恐らく律にはない。
かなでにほとんど無条件に慕われる余り、相手の考えを探る必要がないその関係に、律はすっかり安心して、だからこそ他人の心を量る必要もなかった。

けれど実は兄妹は、子供の頃こそずっと一緒にいられるものだと思われるが、年を追うごとに、交流範囲は広がってむしろ離れていくものだ。
ずっと一緒にいられる保障など、どこにもない――そのことに、彼女の交友関係が広がるのを見て、ようやく気づいたというところだろうか。

(「まあ、俺のほうがよっぽど損な性格かもしれないけど」)

このまま、二人がその天然さと不器用さゆえにすれ違っていったとしても、自分があのような助言をする必要など、それこそない。
そう考えながらも、余計な世話を焼いてしまうのは――そんな自分の気持ちに素直で、一生懸命で、けれどもとても要領が悪い二人が、余りにも自分とは正反対過ぎて。
そして、大切な人たちだからなのだろう。

だから、自分の中に燻る感情には気づかぬ振りをする。
自分がどれほど、可愛いと繰り返し言っても、曇りない眼差しに変わりなく、たった一人だけをひたむきに見つめる向日葵のような少女。
目を閉じればいつの間にか、あのあどけなく明るい笑顔があっさり思い浮かぶようになっていて。
けれど、この育ちかけている淡い想いに気づいても、喜ぶ人は誰もいない・・・それはきっと自分でさえも同じだ。
それは自分よりも誰よりも、彼らに――大切な親友と、好きになった人に幸せになってほしいと願うから。

そこまで考えた所で、今度こそ自分の思考を振り切るように、大地はそっと瞳を閉じるのだった。




あとがき☆
初めての律かなでの(拍手のお礼は書いてますけど)短編でしたが、いかがでしたでしょうか?

といいつつ、かなでちゃんは出てきてないんですけども(しかも律より榊の方がいっぱい喋ってるよ・・・)
だからか甘くはありませんね・・・スミマセン(汗)
榊視点なので、しょうがないんでしょうけども・・・

でもこれは一応、律のイベント「デート未満」から思いついたネタです
楽器店に行くのだと聞かされた後に出る選択肢で、「この後、デートだと見栄を張る」を選んだときの反応に大変萌えまして・・・!
これを選ぶと、親密度が下がるかなと2周目までは選ばなかったのですが、今やってる3週目で試しに選んでみたら、親密度も下がらないし、その上気にしてるとか・・・!
改めて、律はホント昔からかなでちゃんが大好きなんだな〜と分かり、嬉しかったですvv
ですから、あの夜の後も、律は結構気にしてたらイイなと♪

ちなみに背景のひまわりの花言葉は、ゲームでも新が言ってた通り「あなただけを見つめます」
後は「愛慕」「光輝」そして「敬老の日」(爆笑)
もうどう考えても(特に最後の一つ・笑)律かなにピッタリですよね(笑)
とにかく、二人とも相手のことしか見てないし、見えてないから他の人から寄せられる恋心に全然気づかないのではないかなとも思いましたので(#^.^#)

しかし、榊がとても不憫な立場になってしまって、ファンの方には申し訳なく・・・(汗)
でも実際、榊は岡本くんや土岐にはとても黒いですが(笑)
律とはホント仲いいので、彼相手だったらかなでちゃんを同様に慕う恋敵でも、譲ってしまいそうな気がしまして
本編でも自分が活躍するよりも、アンサンブルの仲間を支えることに重点を置いてますしね。

まあ、つまりは私的には、この二人はどちらも相手のことが大好きで周りが見えないくらいなんだと信じてるということです(笑)



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