シャッターチャンス











暑さも和らぎ、涼やかな風が吹くようになった季節の、穏やかな昼下がり。
かなでと律の2人は、森の広場で昼食を楽しんでいた。

元々律は口数が多いほうではないし、かなでものんびりとした性格であり、一緒に居てもぽんぽん会話が弾むわけではない。
けれど、彼は目の前のほんわかした彼女の笑顔が見られれば幸せで、かなでも同じように思ってくれているので、沈黙も気になることはなかった。

そんなわけで、2人きりの静かで心地よい時間を過ごしていたが、そこに思わぬ訪問者が現れた。

「ここに居たのか小日向、如月兄も。2人きりでランチタイムとは仲がいい事だな」

「ニア!えへへ、そう見える?」

ニアの言葉を聞き、かなでは、それはそれは嬉しそうに相好を崩した。

「ああ、とても。まあ、そんなことがなくとも、君のその幸せそうな顔を見れば容易に想像がつくがな」

楽しげに肯定するニアに、彼女が今度は、少々困ったように微笑むと、頬を染めて俯く。

「しかし、君を探していたんだが、如月兄にも用事があったからな。ちょうど良かった」

「?俺にも用があったのか」

彼女の意外な言葉に、今度は律が目を丸くして反応する番だった。

「そうだ、実はこの夏のコンクールの時に撮った写真ができあがったから、君たちに持ってきたのさ」

「そうだったの。ありがとう、ニア」

「何、これくらい親友なら当然の事だろう?」

「すまないな。わざわざ持ってきてもらって」

「いいさ、君たちにはこの夏、実に刺激的な日々を提供してもらったからな。
それに、こういうのは1人で見るよりも、仲睦まじい2人で見たほうがいいだろう?
せっかくだから一緒に見るといい」

さて、と立ち上がると、ニアはかなでの弁当のおかずの玉子焼きと唐揚を1つずつつまみ、口に放り込む。

「これ以上恋人たちの甘い時間を邪魔するような無粋な真似はしたくないからな。
私はこれで失礼するよ、報酬は君の美味い手料理で十分だ」

「うん、写真ありがとうね」

かなでは親切な親友の気遣いに感謝して、にっこりと笑顔を浮かべた。
そしてあっという間に立ち去ってしまった彼女に、律はしばし呆然とする。

「もう居なくなったのか、相変わらず素早いな」

「そうだね、気を遣わせちゃって悪かったかな。でもせっかくだから、一緒に見ようよ」

「・・・そうだな」

かなでが提案すると、律も再び穏やかに微笑み、2人で同時にニアが持ってきたアルバムを開いて捲る。

「あ、これ、コンクールの後の祝賀パーティーの写真だね。
ついこないだなのに、何だか随分前のことみたい。懐かしいなあ」

「そうだな、こっちは部室で5人で撮ったものか。よく撮れている」

懐かしさに目を細めてどちらもしばらく写真を見ていたが、やがて律はある事実に気がついた。

「・・・小日向」

「どうかした?律くん」

「このアルバムには他校生も大勢居て、どの時も楽しかったはずなんだが・・・お前といる時の俺は、こんな風に笑っていたんだな」

「え?・・・うん、だから言ったでしょ?律くんはよく笑ってるって」

「・・・・・・」

どの写真に写った時も、この夏の全ての思い出が、かけがえのないものだと感じている。

だが、どれを見ても、かなでと居る時の自分は、確かに、特によく笑っていた。
心から幸せなのが、全ての写真の自分の表情から伝わってくる。
自分は笑わない、愛想がなく付き合いにくい人間だと思っていたのを、忘れそうなほどに。

「ね、律くん。律くんは前、自分のことあんまり笑わないって言ってたけど――私は律くんが優しくて笑顔が素敵だって、ちゃんと知ってるよ」

隣に居る彼女が、そう言って花が綻ぶような笑顔を向けてくる。

「だから、もっと笑ったら、みんな分かってくれるよ。律くんが優しい人だって。
それに私は律くんの笑顔大好きだから・・・他の人にも律くんの笑顔をもっと見て欲しい」

そう言ってはにかむように微笑む少女を見て、律は苦笑してその髪をくしゃりと撫でる。

自分はこうして彼女が見せる春風のような笑顔を見るたびに、他の誰にも見せたくない、などと狭量なことを思ってしまうのに・・・
我ながら、余裕がない自分自身に呆れるばかりである。

「そうか・・・お前は優しいな」

「え?ううん、そんなことないよ〜」

「いや・・・そんな風に言ってくれるのはお前だけだ。
俺は、むしろお前がそうやって見せてくれる暖かい笑顔が好きで、他の誰にも見せて欲しくないなどと思ってしまうのに・・・
全く、高校生にもなって大人気ないな。お前も呆れるだろう?」

「まさか、そんなわけないよ!だって、私、律くんがそう言ってくれて嬉しいもの!」

「・・・嬉しい?」

予想もしなかった答えが返ってきて、律が驚いていると、かなでは彼の手をギュッと握り、真っ直ぐに見つめてくる。

「だって、律くんがそんな風に言ってくれるのって、私にだけでしょう?
それだけ特別に想ってくれてるってことだもん、その気持ちが嬉しいとは思うけど、呆れたりなんて絶対しないよ」

「小日向・・・」

「それに、私は律くんが思うより、きっと優しくなんかないよ。
みんなにも律くんの笑った顔、見て欲しいと思うけど・・・1番近くにいるのは私だったらいいなって思うから」

照れくさそうに俯きながらも、そう呟く彼女が愛おしく、律は自分が小さく笑みを零すのを、今度ははっきりと自覚する。
その言葉と仕草だけで、もやもやとした胸の中が、澄んだ空のように晴れ渡っていくようで。
清々しい幸福感に包まれ、ようやく安心したように彼の口が緩やかに弧を描いた。

「それなら大丈夫だ。俺が笑うのはお前の前だからだと、もう分かっているだろう?
何も心配はいらない」

「律くん・・・うん、私もだよ。私も、律くんの笑った顔を見ると安心するから、ずっと一緒にいさせてね」

「ああ、俺の方こそ頼む。こんなに、満たされた気持ちになれるのは、きっとお前と居る時だけだから――ずっと傍にいてくれ」

鈍い2人ながら、お互いを大切に想い合っていることを確認して、どちらも嬉しそうに微笑む。
そうしてふわりと笑う彼女を見つめる律の表情は――ニアが見たなら、間違いなく写真に収めたくなるだろう、めったに見れない貴重なとびきりの優しい笑顔だった。

あとがき☆
さてさて、ようやく12股ED見れまして!
あのED後の話が書きたくなったため、書いてた律かなの短文です☆
ホント突発的に書いてたので、大変短くなってしまいましたけどorz

ニアが撮ってた写真を二人で見てたらいいな〜と。
で、かなでちゃんの前では律はよく笑うということなので、それを自覚したらイイなという思いも込めて

珠玉EDや配信の影響受けまくって、律が大変独占欲強いですけどww
やっぱりこのCPの仲良しぶりは大好きなので^^
今後も周りの目を気にせず、こんな感じでラブラブしてくれてたら良いなと思います♪



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